File #3 視界不良

 そう、O氏の事件といえば、もうひとつ印象深い事件がある。その当時O氏は大学に在学中で、岡山に在住している時に起きた事件だが、同じような体験をした人はほぼ皆無であろうと予想されるほど、奇怪な事件であった。

 事件前、O氏は岡山の友人と車で外出していたらしい。事の詳細ははっきりとは聞いていないが、その外出の帰路に事故に遭ったようだ。事故といっても、O氏が追突事故を起こした、つまりは「オカマを掘った」わけだから、遭ったという表現は適切ではないかもしれない。
 その事故で、O氏の愛車インテグラはボンネットがへこみ、修理が必要な状態となった。O氏は地元神戸に整備工場を営む知り合いがおり、とりあえず神戸まで帰って修理することにした。幸い車は走行には耐え得る状態で、地道でゆっくり行けば帰れると判断し、後日慎重に出発した。いや、走行に耐え得る状態に見えたというのが、正確な表現だろうか。
 岡山市内を過ぎ、2号線を東に走って、備前市辺りに差しかかった所だったろうか。もうあと数十分で兵庫県に入るという時、問題のトンネルが現れた。この岡山から兵庫に入る辺りは、短いトンネルが比較的多く、問題の個所もそれほど長くはないトンネルではあった。それ故に、誰があんな怪事件を予想することができただろうか。いや、誰もできなかったであろう。
 O氏はそれまでのトンネルと同じように、慎重な運転を続けながらこのトンネルも過ぎようとしていた。トンネルに入ってしばらく経った頃、何処からともなく「カタカタカタ・・・」という微妙な音が聞こえてきた。何の音かといぶかるO氏をよそに、その数秒後、事態は最悪の状況を迎えた。
 「ふわっ」
 なんと、インテグラのボンネットが開いたのだ。しかもボンネットは可動範囲を超え、フロントガラスに襲い掛かってきたのだ。
 「ピシッ」
 乾いた音と共にガラスにヒビが走り、当然の如くO氏の視界は奪われた。O氏は一瞬焦った。しかし、読者の方はボンネットの運転席側に、半円状にカットされた部分があるのをご存知だろうか。その半円状の部分に、O氏は活路を見出したのだ。運転席に体を縮め、全身全霊でその僅かな隙間から前方を覗き込むO氏。まさに生命の危機と直面していると言えた。

 その異常状態が続くこと、数十秒。ついにO氏はトンネルを脱出し、出てすぐの路肩に車を止め、一息ついた。死地からの生還とはこの事を言うのか。O氏には安堵感から来る気だるさと、目の前にある愛車の状態を理解した事から来る喪失感に、身を任せるより他なかった。
 この後、事故車が止まっているとの通報で、警察が駆けつけたというオチがつくのだが、それは本題からはそれる為、詳しくは語らない。

 この事件によって初代インテグラはその使命を終え、2代目インテグラの登場となるのである。